大腸癌は大きくなるにつれ、いろいろな拡がりをします(右図1)。大腸癌でも癌が粘膜や粘膜下層のあさいところに限局している例では、まず転移はありません。
もう少し癌が深いところまで入ってくると、粘膜下層や筋層にたくさんある血管やリンパ管内にガン細胞が入りやすくなります。その後、ガン細胞が血の流れにのって拡がると(a)血行性転移、リンパの流れにのって拡がると(b)リンパ行性転移とよびます。
さらに癌が育ってくると腸の壁の内側(粘膜側)から外側(漿膜側)に顔を出します。外側に顔を出した癌が周辺にかみこむことを(c)直接浸潤(ちょくせつしんじゅん)とよびます。
また組織の型により、下部直腸癌以外では腹膜へガン細胞がこぼれ落ち、そこでガン細胞が育つことを(d)腹膜播種(ふくまくはしゅ)といいます。
血行性転移の最初のステップで、まずガン細胞(のかたまり)が大腸の壁の静脈の中に入ります。少しずつ太い静脈へ流入し、ふたたび細い血管で網にかかります。ですから、最初に通り抜ける細い血管の網がどこにあるか、で転移をおこしやすい臓器が決まっています。。
盲腸から横行結腸までは上腸間膜静脈、下行結腸から上部直腸までは下腸間膜静脈をへて、門脈(Po)に流れこみ肝臓へ到達します。ですから、この部位にできた癌は(血行性転移するときは)最初に肝転移します(図2)。
中部および下部直腸にできた癌は、先の下腸間膜静脈以外に内腸骨静脈を通じで下大静脈(IVC)へながれこむルートが主になります(図3)。下大静脈へながれこんだガン細胞は、肝臓を通過することなく心臓へもどり、そのあと肺動脈をつうじ肺へ転移するのです。
結腸癌が肺に転移をするときは、すでに転移をおこした肝臓の病巣から2次的におこす場合がほとんどです。
癌はリンパの流れに乗り転移することもあります。末梢のリンパは多くは動脈に沿って、動脈と逆の方向へ流れています。大腸のリンパは結腸と直腸では違いがあります。
結腸の動脈は、心臓に近い側からいうと大動脈(Ao)ー上あるいは下腸間膜動脈(SMA or IMA)から結腸動脈が分かれていきます。ですから、リンパ節はこれと逆の順番でガン細胞が拡がっていきます(図4)。
早期癌では大腸のすぐそばのリンパまでも転移はありませんが、癌が進行すると大動脈周囲のリンパ節まで腫れるようになります。
直腸癌、とくに下部直腸癌ではこの上向きのリンパの流れと別に、横向きのリンパの流れがあります。大動脈ー下腸間膜動脈だけでなく、大動脈ー内腸骨動脈(IIA)ー中直腸動脈(MRA)など側方からも動脈が流れ込んでいるからです。(図5)
大腸壁の外側へ顔を出した癌が、周辺の臓器へ直接かみこむことです。癌の周辺に何があるか、つまり癌がどの場所へできるか、で浸潤していく臓器も異なります。
臨床上とくに問題になるのは直腸癌で、膀胱、尿管、尿道などの尿路系や、子宮、膣(女性)や前立腺、精のうなどの生殖器系への浸潤は、進行癌ではめずらしくありません。
女性の場合は浸潤するのも婦人科臓器なので、合併切除しても生活の質は大きく変わりません。しかし、男性の場合は前立腺、尿道をいっしょにとるとなると、人工肛門に加え回腸導管もつくるdouble stoma=便だけでなく尿も腸管で腹側より出すことになりますので、手術前の十分な検討が重要です(図6)。
腹膜にガン細胞がちょうど種播き(たねまき)のように散らばった状態のことです。以前はお腹をあけないとわからなかったのですが、最近は画像診断の進歩でPETで術前に診断がつくこともあります。腹膜へ転移があれば、大腸癌ではかなり進行した段階となります。