腹腔鏡手術の現況について

2006年夏、プロ野球監督の王貞治氏が早期胃癌に対して、腹腔鏡手術で胃の全摘手術をおこない話題となりました。「腹腔鏡手術とはなんだ?」と巷間、話題をさらいましたが、「胆石をカメラで治す手術」と言い換えれば、みなさんの周囲を見渡せば、探すのに苦労しないでしょう。これを胃癌の治療に応用したわけです。

腹腔鏡手術の功罪については、もとのページでも簡単に触れました。ここでは、現在どのような大腸がんまで腹腔鏡手術(図1)がおこなわれているか、について説明します。

適応の拡大について

もちろん大腸がんのすべてが腹腔鏡手術の適応ではありません。結腸癌と直腸癌でも異なります。従来の手術法でも、「結腸癌の手術」と「直腸癌の手術」にはリンパ節郭清をする上での大きな差異があります。

結腸癌

結腸癌のリンパ節郭清は血管処理に平行してすすめるだけで、直腸癌のような側方郭清は不要です。ですから、もっとも重要なのは腫瘍の深達度=癌が大腸の壁のどの深さまで入っているか、です。TNM分類で深達度を考えましょう(図2)。

Tis(粘膜癌)では腹腔鏡手術ではなく、大腸内視鏡でみながら粘膜切除をおこなっています。また、側方へ広く拡がるタイプの扁平腫瘍(LST)についても、内視鏡下粘膜剥離術(ESD)が施設により施行されています(図3)。

従来適応が認められているT1,2については、異論がなく腹腔鏡手術の適応とされています。

明らかな他臓器浸潤があるときは、腹腔鏡でなく開腹手術をする、というところもコンセンサスを得ています。すなわち、T3およびT4の一部が開腹手術と腹腔鏡手術のどちらが望ましいか、多施設で検討されています(図4)。

直腸癌

直腸癌の腹腔鏡手術をおこなう上での結腸癌との違いは

  • リンパ節郭清の問題=側方をどうするか
  • 吻合の問題=安全に吻合するため

これらをクリアした上で、長期成績に開腹手術に劣らないだけの成績が望まれます。

深達度で区分したときに、Tisは内視鏡手術(あるいは鏡視下手術)での切除となることが多いでしょう。逆にsiでは間違いなく開腹手術となります。

この間のT1からT4の一部までの広い範囲が、腹腔鏡手術か開腹手術か、の検討がなされています。現状では(とくに中下部直腸の)T3位深の進行癌では、腹腔鏡手術の適応外と考えられています。

直腸癌手術で腹腔鏡手術の長所は 近接して狭い視野でも細い血管や神経が確認できることです。今までは腹腔鏡手術の精度を開腹手術に近づけるか、という点が強調されてきましたが 自律神経を温存する上では明らかに腹腔鏡手術が優っています。

腹腔鏡手術の意味するところ=医療サイドから

医療経済や美容面から、標準化が進みつつある腹腔鏡手術ですが、いっぽうで医療の現場では大きな問題点があります。それについては「腹腔鏡手術の将来における問題点」を参照してくだい。

飯原医院.jpについて